服部一成と佐野研二郎のデザインをめぐって、友達とケンカした話

 

服部一成佐野研二郎のデザインをめぐって、友達とケンカになった。

服部一成佐野研二郎は、ともに引く手あまたの人気グラフィックデザイナーで、佐野研二郎はオリンピック・エンブレム問題で話題になった人でもある。

佐野研二郎はエンブレム騒動をきっかけに、それ以前にも他デザイナーの作品と近似値が高いものを発表していたことが指摘され、もうデザイナーとしてやっていけないのではないか、私を含めそのように思っていた人も多いだろう。

そんな彼が、エンブレム騒動後に仕事をした。それが右側、「新しい地図」のウェブデザイン(2017)だ。

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そして左側が、服部一成が約20年前に手がけたキューピーマヨネーズの広告だ。 ちなみに「新しい地図」とは、2016年に解散した国民的アイドルSMAPの元メンバー3名が立ち上げたグループの名称である。

私は、この2つのデザインはとても似ていると思った。そして、似ていることが前提として作られていると感じた。一方友人は、特に似ているとは感じないとのことだった。そこで「物事の感じ方は人それぞれ〜」と話を収束させればよかったのだが、そうはならなかった。そして、これら2つのデザインが似ていると感じる論拠を示すことになった。こうである。

これらのデザインを構成する重要な要素は「青空」と「手書き文字」である。写真の明るさ、コントラストなども含め、これはどちらにも共通している。手書き文字の「均一なカリグラフィのタッチ」も共通点だ。

逆に違うところは「手書き文字の色」「文字が画像に直接載っているか」「空以外のモチーフ/電柱が写っているか(このモチーフの影色や電線が黒い手書き文字との近似を招いてもいるが)」「手書きでないタイプフォントも取り入れているか」だろうか。しかし、第一印象として視認される大きな要素はやはり、「青空」とラフな「手書き文字」である。  

 

左のキューピーマヨネーズのデザインはとても有名で、服部一成の名前を知らなくても、この広告を記憶している人はいるだろう。彼は今でも第一線で活躍しており、広告デザインに携わる人なら、まず知らない人はいない。それこそ佐野研二郎がこの広告を知らないことはちょっと考えられない。 

だから、これは服部一成のパクリデザインでなく、服部一成のデザインをベースにした、かなり戦略的なデザインなのではないだろうか。

なぜなら、服部のキューピーマヨネーズのデザインは、マヨネーズのカロリーを半分にカットした「キューピーハーフ」という製品の広告で、カロリーを気にする20代前後の女性たち(1997年当時)に向けられていたものだ。その広告のターゲット層だった女性たちは現在40代前後、SMAPの元メンバーによる「新しい地図」を応援する層と重なる。当時 「キューピーハーフ」の広告をテレビや雑誌で目にしていた人たちの無意識裡に訴え、思春期頃の溌剌とした気持ちを喚起させるデザインなのではないか。

エンブレム騒動のあと、パクリが転じて、似ていること自体が悪いことのような風潮を感じる。しかし「新しい地図」のデザインにおいては、むしろ上記のような戦略や工夫への価値判断を抜きに、「服部のデザインには全然似てないよ」としてしまうことの方が佐野に対する不当な評価の気がする。

 

デザインは既存のイメージ、普遍的で共有可能なイメージに基づきながら作られる。赤や黄といった色は、視認する人に強い印象を与えることから、信号の停止や電車ホームの淵に用いられる(また用いられることで、見る者も相互的にこれらの色に警戒のイメージを持つ)。そういうイメージや文脈、情報の集積の上にデザインは成り立つ。なにか新しい印象を与えることが目的とされる場合でも、今までどのようなデザインがあったのか、リサーチとの比較の上に成されるものだ。

例えば、「オレンジ/ネイビー/丸ゴシックは、ディック・ブルーナを思わせるから使用を避けよう」とか、「オランダ関連の企画だからむしろ印象を寄せていこう」とか、既存の作家が成したものを前提に制作されもする。 むしろ、たまたま似てしまったというのが、デザインにおいて最も許されないことだろう。それはただ、学びがサボられている状態だからだ。

実際、「新しい地図」のデザインにおいて服部の作品が意識されていた場合、すごいのは佐野研二郎という人がエンブレム騒動後すぐにこうしたデザインを手掛けたことだろう。デザインにおける模倣のあり方について、考えざるを得ない。

そもそも、新しくオリンピック・エンブレムに決定した市松模様だってまた、模倣の繰り返しによって「伝統」となった様式的デザインである。これは大変皮肉めいた結果のように思われる。

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