写真は複製可能か。変わる写真家──中平卓馬 火|氾濫──東京国立近代美術館

出力するメディアに応じて写真の見せ方を変えること。写真やカメラに対するだけでなく、かたちとなる先のメディウム・スペシフィシティを重んじることが中平卓馬の強度であり、それを展覧してくれているのがよい。 〈日常〉1997 ・展示プリント 2枚1組で見せ…

ナルシシズムの正体

ロザリンド・クラウスがオクトーバーの創刊号に書いたヴィト・アコンチの悪口。河合政之氏は隙あらばそれに抵抗している(1、2)。私もヴィデオ・アートの一般的な概念にナルシシズムを置くのは無理筋と思うし、たとえヴィト・アコンチがナルシストだったと…

モネと写真。鈴木理策の《水鏡》

モネと写真のつながりを知ったのは、松浦先生からだった。 十何年前、ムサビ学生課下の大教室で、先生は全学科生に向けて美学の講義をしていた。仲間内の情報交換でめっぽう面白いのは103だと聞いてから、単位の申請はしないまま木曜日は一号館に通うように…

最近観たり読んだりしたもの。AC部、谷口暁彦、トム・ガニング。

AC部の個展「異和感ナイズ展」(銀座クリエイションギャラリーG8 2022. 2/22(火)~3/30(水))を観に行った。 AC部はこのごろ、MV『New Tribe』(2019)などに見られる「アニメーション制作の過程で生じるレイヤー構造を直接的に見せる」ことを積極的にや…

『ドライブ・マイ・カー』と3匹の犬

映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)には、3度犬が登場する。本作に登場する生身の動物は犬だけで、3回の登場では必ず本作の主要人物・渡利みさきと関係する。はっきり言って、このことがどうしても受け入れがたい。渡利という23歳の若い娘を、犬という「…

決め画の数フレーム前ーー『最後の遊覧船』B面

A面はこちら こんっっなに夢中になったマンガは……発売日当日、日付が変わった瞬間にマンガを買うなんて初めてだ。『最後の遊覧船』。洋子はカモメで、祐子はフネで、船長は、というくどい話はこっちに詰めた。ここでは、マンガにおける時間の描き方、めちゃ…

カモメ、船、みず海ーー『最後の遊覧船』A面

B面はこちら 『最後の遊覧船』という、めちゃくちゃによい漫画がある。もう、よい、よい…としか言えないし、全部のよい、について言いたい。そういう気持ちは読みものに向かないかもしれないが、とにかく書いていく。 (『ホテル・カルフォリニア』も)ネタ…

ちょっとピンぼけ。北方領土エリカちゃん

「ぬい撮り」という写真のジャンルがある。 これは旅行先などにお気に入りのぬいぐるみを連れていき、そのぬいぐるみをファインダーに入れた記念撮影を行う文化の呼称である。 一般には家族や友人を被写体に撮影するような状況で、なぜぬいぐるみが登場する…

PARCOとLUMINEの広告デザイン、ポスト・ウーマンリブの空白。

LUMINEのコピーが苦手だ、PARCOのコピーがいい。 ということを、ここ数年ずっと思っていた。と同時に、これは単純にマッチングの問題で、私がLUMINEがターゲットとする女性像に含まれないだけで、時代の潮流はLUMINEにあるんだよな、ともLUMINE広告を見かけ…

服部一成と佐野研二郎のデザインをめぐって、友達とケンカした話

服部一成と佐野研二郎のデザインをめぐって、友達とケンカになった。 服部一成と佐野研二郎は、ともに引く手あまたの人気グラフィックデザイナーで、佐野研二郎はオリンピック・エンブレム問題で話題になった人でもある。 佐野研二郎はエンブレム騒動をきっ…

清原唯『わたしたちの家』と、よだまりえ「私の家」/諏訪敦彦『H story』

映画『わたしたちの家』について考えていて、清原監督の同級生、よだまりえさんの「私の家」を聴いていた。 www.youtube.com 宇宙の中に小さい惑星(ほし)だ 緑と青の服を着てる 辺りは霞 半径2ミリ そこに私の家があるの 一億二千年前の話 私はいったい何…

石内都――写真と被写体、それぞれの表皮

石内都、実はちょっと苦手だったのだ。被爆した衣服、傷跡のある肌。彼女が選ぶ被写体は、それ自体がとても強いものだから、写真を前にして受け取る情動が、写真の力か被写体のエネルギーによるものか判断しにくい。 そのように分けて考えることの不毛さ、「…

能條純一 デフォルメとしての写実

思い起こすのは、能條純一である ビーバップみのるが「『浮浪雲』だけ読んどきゃいい、『浮浪雲』にぜんぶ描いてある」と映画『Bisキャノンボール』で言ったよう、『浮浪雲』(ジョージ秋山)にこの世の理はすべて描いてある。だから実際、『浮浪雲』だけ読…

長渕剛と「移人称」

長渕剛の歌詞に、移人称のものがある。そしてその移人称は〈歌われる言葉〉を聞くのでなく、〈書かれた言葉〉を読むことによって生じる。突然だが、このことについて述べていく。 長渕剛『RUN』 まず、長渕剛の『RUN』を聴いて欲しい。 長渕剛「RUN」 - Y…

東京トガリのトガみ

東京トガリについて、解き明かすことはできない。 解き明かそうとすると発狂しそうになるところが数学に似ている。 東京トガリはすごいスピードでコンテンツ力を上げていくので、私の遅筆ではとても追いつけない。 Ⅰ 東京トガリのtwitter(2017.4.22 初ツイ…

北野武『素晴らしき休日』全解釈

『素晴らしき休日』は、北野武の映画(3分)だ。 カンヌ映画祭からの依頼「映画館をテーマにした3分間の映画」のために、この作品は撮られた。 この3分間の映画は、2時間の映画と変わらない映画的エッセンスに溢れている。 先日、この作品を友人と観たとき、…

0号室とウジェーヌ・アジェ――コンテンツ・アート

0号室さんのインスタグラムがかっこいい。 https://www.instagram.com/0___room/ 匿名の極地、といった感じだ。 〈景色〉は無人。 〈人物〉は手足や後ろ姿のアップ。 〈エフェクト〉は既存のスマホアプリのもの。 戦慄するほどディストピア。 とにかく見た瞬…

〈寝る前映像〉としてのリアル――『君の名は。』新海誠

私たちは、夜寝る前に布団の中で妄想している。 好きな漫画のキャラクターになる その漫画に新キャラとして登場する 好きなアイドルや、好きなクラスの子といい感じになる などの映像ヴィジョンを、毎晩夢想している。 『君の名は。』は、この、夜の〈寝る前…